善く戦う者は人を致すも人に致されず(孫子 虚実篇)
営業で、効果的に攻めるためには主導権を確保することが不可欠です。主導権を握るためには、「天の利・地の利・人の輪」の三つの視点から状況を確認し、適切な行動を取ることが重要です。
1.天の利・地の利・人の輪とは
- 天の利: 景気や業界の動向、競合の動き、取引先の組織改編や人事異動など、環境の変化全般を指します。
- 地の利: 自社が持つ主力業務、注力分野、技術やノウハウなどの保有資源です。
- 人の輪: 営業担当者や社内のスタッフ、協力会社、提案にかかるコストや自社のバックアップ体制のことです。
特に重要なのは「天の利」、つまりタイミングです。成功している経営者や営業担当者が「運が良かった」と言うのは、タイミングを見極め、迅速に行動した結果です。これには行動量と情報感度の高さが大きく関わっています。
2.攻勢移転と主導権
「追い風」を感じる場面は、新担当者、新組織、新計画、新年度、新商品など、「新」の付く変化に現れます。こうした機会を捉え、訪問や提案を増やし、攻めの営業活動を強化していくことが主導権確保に繋がります。
ただし、攻勢に転じた際に無理をし過ぎると、業務ミスの増加や競合との激しい競争で反動的に売上が低下するリスクがあります。以下のようなサインに注意が必要です。
- 業務に疲れ、ミスが増えてきている。
- 予期せぬ業務が増えている。
- 競合の後追い的な業務が増えてきた。
3. 主導権を失うリスク
主導権を失うと、取引先や競合のペースに振り回され、自社のリソースが消耗されてしまいます。また、提案の品質が低下し、取引先からの評価が落ちる危険もあります。具体的なリスクとしては以下が挙げられます。
- 提案機会の逸失
- 後追い業務の増加による消耗
- 取引先からの評価の低下
4. 攻勢時の基本方針
攻めの営業では、戦略的に提案機会を創り出し、営業活動を効果的に進めることが重要です。提案による「山場」を作り出すことで、以下の効果が期待できます。
- 戦力結集効果: タイミングを見極めて営業力や技術力、費用を一点集中で投入します。
- クレデンシャル効果: 取引先幹部を巻き込んだ提案で、自社のノウハウや技術力、取り組み姿勢をアピールします。
- クロージング効果: 「全力を尽くした提案」を通じて、取引先に最終的な決断を促します。
5. 営業マネージャーの心得
攻めの営業を成功させるために、営業マネージャーは次の心得を持つべきです。これは、アメリカ陸軍の意思決定ガイドラインからも示唆されています。
- 敵の意図、能力、反応時間を考慮する。
- 不完全な情報でも素早く決定する。
- 完全な解決にこだわって決定を遅らせない。
- 受容可能なリスクを迅速に判断し、行動を取る。
- できる限り低いレベルまで意思決定権限を委譲する。
(「ランチェスター思考Ⅱ直感的問題解決のフレームワーク」 東洋経済社 福田秀人より)
攻勢が長引くと消耗戦に陥り、他の営業活動にも悪影響を及ぼします。攻勢に出たならば、目標達成まで一気に駆け抜けることが成功のカギです。
攻めの営業はタイミングを見極め、主導権を握ることで大きな成果を上げることができます。取引先との関係を深めつつ、効率的かつ効果的な営業活動を進めていきましょう。