マーケティングには、顧客との接点をどのように広げるか、という「空間軸」と、顧客との関係を深めていく「時間軸」という2つの重要なアプローチがあります。
空間軸のマーケティングとは
空間軸のマーケティングは、顧客接点を広げることに焦点を当てたアプローチです。新店舗の開設、ECサイトの運営、売り場面積の拡大などが代表的な施策で、顧客の数や購入アイテム数を増やすことを目的としています。特にチェーン展開する流通業では、これまでこのアプローチを中心に発展してきました。
しかし、多くの大手流通チェーンは「顧客の実態を把握できていない」と感じることが増えてきました。ハウスカードやクレジットカードを通じて一部の顧客情報を把握する手段は整っていましたが、購入行動の詳細までを掴むことは難しかったのです。
時間軸のマーケティングとは
一方、時間軸のマーケティングは、顧客一人ひとりとの関係を深め、LTV(ライフタイムバリュー)を高めるアプローチです。セルフ販売を中心とするチェーンでも、デシル分析により、2:8の法則が確認されており、上位顧客との関係強化が成長に不可欠であることが明確になりました。
日本の流通業界は、人口減少と経済停滞という現実に直面しています。このような環境では、もはや空間軸のマーケティングだけでは十分ではなく、時間軸のアプローチがますます重要視されています。
空間軸のマーケティング | 時間軸のマーケティング |
新店舗の開設:物理的に新しい場所に店舗を出店し、顧客接点を増やす。 | LTV(ライフタイムバリュー)の向上:顧客との長期的な関係を築き、購入回数を増やすための施策を実施。例: ロイヤルティプログラム、ポイント制度の導入。 |
ECサイトの運営:オンライン上で商品を販売し、リアル店舗に加えて新たなチャネルを構築。 | 顧客データの蓄積と分析:購買履歴や行動データを収集し、個々の顧客に合わせたマーケティングを行う。 |
ポップアップストアの展開:一時的な店舗を開設し、新たな市場で顧客と接触する機会を創出。 | パーソナライズされたプロモーション:顧客の購入履歴に基づき、個別にカスタマイズされたオファーやキャンペーンを提供。 |
コラボレーション店舗:他ブランドとの共同出店や、異業種とのコラボレーションで新しい顧客層にリーチ。 | リピート購入促進キャンペーン:次回購入時の割引や特典を提供し、定期的なリピート購入を促す施策。 |
イベント開催:店舗内外でイベントを実施し、新規顧客を誘引。 | 定期購入サービス:顧客に定期的に商品を届けるサブスクリプションモデルを導入し、長期的な顧客関係を構築。 |
課題となる顧客理解
そこで課題となるのが「顧客理解」です。効率的なオペレーションが求められる中で、どのように顧客情報を収集し、活用するかがカギを握ります。ドラッグストア業態は、ポイントカードの普及率や幅広い商品取扱いによって、顧客理解が進んでいるといわれます。また、スマホ決済やアプリの普及によって、コンビニエンスストアも急速に顧客情報の収集と活用を進めており、業態間競争で優位に立っています。
進化するリピート通販の手法
さらに、リピート通販という業態は、時間軸のマーケティングを最も進化させている分野の一つです。初回購入から固定客化までのデータが蓄積され、顧客の購買行動を的確に捉える手法が多く開発されています。これらのノウハウは、技術の進化により、店頭販売にも応用され始めています。
このように、流通業界では、空間軸と時間軸の両方のマーケティングが重要です。特に日本の市場環境においては、顧客一人ひとりとの関係を深め、時間軸でのアプローチを強化することが今後の成長戦略のカギとなるでしょう。